白井亨(しらいとおる)

~神奈川県川崎市
  巨大都市の悩みは続く編~

2025.04.04

みなさんこんにちは。
リンスタ社会科担当の白井です。

神奈川県川崎市は人口約152万人の政令指定都市で、都道府県庁所在地以外では最も人口の多い市になっています。川崎市より人口が多いのは、横浜市、大阪市、名古屋市、札幌市、福岡市だけで、いずれも日本の代表的な巨大都市ばかりです。これらの5つの市すべてだけでなく、川崎市より人口が少ない神戸市や京都市にもあるのに川崎市にはないものってなんだかわかりますか?

答えは「地下鉄」です。

他の都市にはそれぞれ複数の地下鉄路線があり、市民の足として活躍しています。これだけの大都市なのに、なぜ川崎市には地下鉄がないのでしょうか?

地下鉄のない大都市としては広島市もそうですが、これにははっきりとした理由があります。
下の地図でもわかる通り、広島市は太田川の三角州に発達した町なので、市内には多くの河川が流れています。以前のブログ(東京都江戸川区 川を越える地下鉄編)でも書きましたが、地盤が軟弱な川沿いの土地では、地下鉄の建設費用やその後の排水設備のために莫大な費用がかかってしまいます。そのため広島市では、路面電車が市民の足となっているのです。

川崎市も、東京都との境に多摩川が流れていますが、広島市のように川沿いの低地ばかりというわけでもありません。どうやら川崎市ならではの理由が何かありそうですね。

江戸時代の川崎は東海道の宿場町として発展しました。川崎駅の近くに旧東海道が通っているので、まずはそこを歩いてみることにしました。東京方面から電車に乗っていると、川崎駅に到着する直前に多摩川を渡ります。多摩川は東京都と神奈川県の県境になっているので、川崎市は東京都に隣接しているわけですね。

川崎駅の東口を出てしばらく歩くと、交差点に旧東海道の石碑が立っていました。道沿いの柱には東海道川崎宿と書かれており、ここが宿場町だったことを主張しています。…が、これ以外に宿場町らしい雰囲気はあまり感じられません。巨大都市川崎に宿場町の風情を求めるほうが間違っているのかもしれないですが、なんとなく残念な感じもします。

松尾芭蕉の句碑や史跡マップなどもあったのですが今ひとつ雰囲気も盛り上がらず、いちばんの発見はテレビドラマで見た焼き肉屋を見つけたことでした(笑)
いつの間にか1駅分歩き、八丁畷駅を越えてしばらく行くと、もうそこは横浜市との市境でした。ここまでかかった時間は20分程度。あっという間でした。
「あれ? 駅に着く前に多摩川を渡って川崎に入ったんだよな? で、少し歩いただけでもう横浜?」
…と思って地図を見てみたところ、川崎市は南東から北西の方向に細長く伸びた形をしていることがわかりました。

地図中には、川崎市内のおもな駅を入れてみました。
川崎駅には東海道線、隣接する京急川崎駅は京急線が通り、どちらも東京から横浜方面に向かう路線です。武蔵小杉駅には横須賀線、東急東横線が通り、これらも東京から横浜方面に向かう路線です。溝の口駅には東急田園都市線が通り、これも東京から神奈川を結ぶ路線です。登戸駅には小田急線が通り、東京と小田原を結んでいます。つまり、川崎市内を通るおもな鉄道路線は、川崎市の細くなっている部分を貫くように通っているということです。これだけ鉄道路線が充実していれば、少なくとも川崎市を横に貫く新たな地下鉄路線は必要なさそうですね。

では、縦のラインはどうでしょう?
先ほど取り上げたすべての駅を通っているのが、川崎駅と中央線の立川駅を結ぶJR南武線です。この路線は、多摩川の流れに沿うように川崎市内を縦に貫いています。多摩川に沿っているのは、この路線の建設目的が多摩川で採取された砂利を運ぶことだったからだそうです。川崎市には、充実した横の路線だけでなく、縦の路線もしっかりあったのですね。

川崎市も、東京近郊の他の都市と同様にベッドタウンとしての役割を担っています。東京へ向かう川崎市民は、縦の移動には南武線を利用し、横の移動にはいずれかの駅で接続する東京方面への路線を利用すればいいのです。横の路線が川崎市内を通過する距離は長くはありませんが、これで十分に需要は満たせているということでしょう。つまり、川崎市に新たな地下鉄を建設するメリットがあまり見当たらないのです。

ところがこの南武線、最近は首都圏屈指の混雑路線になってしまっているそうです。武蔵小杉駅の平日朝の時刻表を見てみると、川崎方面の電車が7時台は18本、8時台は19本と、かなりの本数が運転されていることがわかります。ほぼ3分に1本の頻度で電車が来るのに、なぜそんなに激しく混雑するのでしょうね。
その原因は、南武線の電車がたった6両しかつながっていないことにあるようです。首都圏のJRの路線では10両以上というのが一般的です。路線によっては15両というのもありますね。地方から来た人が、駅のアナウンスで「次の列車は短い10両編成です」というのを聞いてびっくりするというのを聞いたことがありますが、南武線の6両というのは首都圏ではとても短いということです。これでは混雑するのもしかたないですよね。

昭和時代の川崎市といえば、工場と公害のイメージが強い都市でした。大きな工場は湾岸地域にあるのですが、昔の地図を見てみると、南武線沿線にも意外に工場が多いことがわかります。現在はタワーマンションが建ち並ぶ武蔵小杉駅周辺にも多くの工場があり、それらの工場は1990年代の地図でも見ることができます。川崎市の人口推移を見てみると、1990年代は約120万人だったのが、2009年に150万人を超えています。比較的最近になってから急速に沿線の住宅化が進み、人口が増えていったということですね。南武線の輸送力はそれに対応できていないということでしょう。

実は、川崎市内にはもう1つの縦の路線があるのです。
地図ではわかりにくいですが、武蔵小杉駅のあたりで横須賀線から分かれ、南武線の南側に沿うように地下を走る鉄道があります。この路線は武蔵野南線と呼ばれ、現在は貨物列車専用の路線になっています。地理院地図で見ると、東急田園都市線の宮崎台駅や小田急線の生田駅の近くを通っている点線があるのですが、これが武蔵野南線です。ごく稀に臨時の旅客列車が走ることもあるそうなので、これを利用できるようにすれば南武線の混雑緩和にもなりそうですね。
ところが、ほぼ全線が地下に建設されているため、駅を建設することが困難なのだそうです。貨物列車の数も多いので、その間に電車を走らせることもまた難しいようです。そこで川崎市は地下鉄の建設を計画したのですが、こちらも費用の面で断念せざるを得なくなってしまいました。都市化の進んだところに新たに地下鉄を建設するのは工事の期間も長く困難になり、その分費用も巨額になってしまうのですね。 

貨物線の利用もダメ、地下鉄計画もダメとなってしまった結果、川崎市の縦の移動は南武線に頼るしかありません。だったら南武線を8両や10両にすればいいのにと思いますが、これが容易なことではないのです。各駅のホームの長さをすべて伸ばさなければいけないのは当然ですが、電車の整備などを行う車両基地のスペース拡大など、数々の大規模な工事をしなければなりません。なんと、この工事がすべて完了して混雑が緩和されるまでには20年近い年月がかかるとか…。川崎市民の悩みはまだまだ続くようです。

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