白井亨(しらいとおる)

~埼玉県富士見市・ふじみ野市
 よく似た名前の隣接市編~

2025.03.14

みなさんこんにちは。
リンスタ社会科担当の白井です。

47都道府県のなかで、最も「市」の数が多いのが埼玉県であることはよく知られています。その数は40にもなり、最も少ない鳥取県の10倍もあるんです。せっかくなので40個すべて五十音順に書き出してみますね。

上尾市・朝霞市・入間市・桶川市・春日部市
加須市・川口市・川越市・北本市・行田市
久喜市・熊谷市・鴻巣市・越谷市・さいたま市
坂戸市・幸手市・狭山市・志木市・白岡市
草加市・秩父市・鶴ヶ島市・所沢市・戸田市
新座市・蓮田市・羽生市・飯能市・東松山市
日高市・深谷市・富士見市・ふじみ野市・本庄市
三郷市・八潮市・吉川市・和光市・蕨市

たぶん、埼玉県民でもぜんぶ言える人は少ないでしょうね。また、他県民は読めなさそうな地名もいくつか見られますね。加須市、鴻巣市、幸手市あたりは難しそうですが、読めますか?
ところで、これらの市のなかによく似た名が2つ並んでいることに気づいたでしょうか。それが今回のテーマとなる富士見市とふじみ野市です。この2つの市、なんと隣どうしになっているんです。住んでいる人たちはややこしくないのでしょうかね?

ふじみ野市はひらがなの地名であることから、おそらく合併などによって新しくできた市でしょう。また、富士見という地名は富士山がよく見えたところにつけられたものなので、割とよくある地名です。現在はビルなどが建ってしまったため見えなくなってしまったところも多いようですが、東京23区内だけでも富士見坂という名のつくところは20か所近くあるそうです。このようなことから考えると、富士見市も合併などでつけられた可能性が高いような気がします。なんだか「?」の匂いがプンプンしませんか?

気になったところには訪ねてみるべし…ということで、12月のとても寒い日にこの地域を歩いてみることにしたのです。みなさんも、下の地図を見ながらついてきてくださいね。

地図を見ていて気づいたのですが、ふじみ野駅はあるけど富士見駅は見当たりません。また、ふじみ野市役所はふじみ野駅の近くではなく、隣の上福岡駅が最寄り駅のようです。なんかますますややこしくなってきました…。

まず降り立ったのは東武東上線の鶴瀬駅。この駅は富士見市役所の最寄り駅です。
富士見市は、1956年に鶴瀬村・水谷村・南畑村が合併してできた富士見村がそのルーツで、後に富士見町から富士見市へと発展したとのこと。駅名となっている鶴瀬はこれに由来するんですね。さらに調べてみたところ鶴瀬という地名も鶴間村と勝瀬村の合併によってできたとのことでした。鶴間も勝瀬も富士見市内の地名として残っています。予想通り、富士見の由来は「富士山がよく見えること」でした。1950年ごろの地図を見てみると、畑と雑木林ばかりが広がっているところでしたので、南西の方向に富士山がよく見えたかもしれませんね。

東口の階段を下りて、駅前通り商店街と書かれた道を北に進みます。しばらく進むと下り坂があり、県道266号線に出ます。さらに北西方向に進んでいくと、また下り坂に差し掛かります。こういう道の先には川があるものと予想していたところ、弁天橋という標識のある、どう見ても橋ではないところ(地図中の市境①)にやってきたのです。そこには下の写真のようなわずかな幅の空間がありました。これはまちがいなく暗渠あんきょですね。地図を確かめたところ、やはりこの下には川が流れており、ここが富士見市とふじみ野市の市境になっているようです。

さらに500mほど先へ進むと、また下の写真のような水の流れていない川らしき空間(地図中の市境②)がありました。そして、その先には文字が薄くなってしまっている「富士見市」の看板がありました。わずかの距離でまた富士見市に戻ったということから、このあたりは市境が複雑になっているのかもしれません。

そこからすぐにふじみ野駅への入り口となる交差点に差し掛かり、信号を見上げるとまたまた「?」が!
下の写真の信号の横に書かれた交差点名をよく見てください。「富士見市ふじみ野駅東口」と書かれているんですよ。もう一度地図を確かめてみたところ、なんとふじみ野駅は富士見市にあるんです。そして、駅の周囲には「富士見市ふじみ野東」と「富士見市ふじみ野西」という住所が、さらに駅の西口からしばらく進んだところには「ふじみ野市ふじみ野」という住所があることを確認することができたのです。いったいどうなっているんでしょう???

ふじみ野駅周辺は、いかにも計画的につくられたという感じの整った町並みでした。先ほどの鶴瀬駅周辺とはかなり様子が異なります。
さて、今度は上福岡駅に向かって歩き始めることにしましょう。今度は線路沿いにまっすぐ進んでいきます。東武東上線の電車と何度かすれ違ったのですが、池袋行き、元町・中華街行き、湘南台行き、新木場行きなどのいろいろな行き先があっておもしろかったですね。
ところで、東武東上線は起点の池袋駅から見ると北西方向へと延びている路線です。それなのに東上線ってなんか不自然な感じもしますね。実は東上線の「東」は東京を、「上」は上州と呼ばれる群馬県を示しています。もともとの計画では、東京と群馬県を結ぶ路線だったんですね。そういえば、群馬県を通って新潟県に至る関越自動車道は東上線に並行するように通っていますし、東上線の終点の寄居駅からJR八高線に乗り継げば高崎駅に辿り着くこともできます。

話をもとに戻しましょう。
線路沿いに進んでいくと再び市境(地図中の市境③)があり、またふじみ野市に入ります。ここには川らしきものは見当たらず、もう少し先に行ったところに暗渠と思われる空間がありました。もしかするとここも何かの境になっていたのかもしれないですね。
まっすぐに続いていた道は上福岡駅が近づくと途切れてしまい、そこから駅には何度かの角を曲がらないとたどり着くことができませんでした。上福岡駅周辺も鶴瀬駅周辺と同じように昔からの町並みがそのまま残っているんでしょうね。鶴瀬駅も上福岡駅も開業したのは1914年です。ふじみ野駅は1993年ですから、その差は約80年。町並みの違いも当然なのですね。

上福岡という駅名は九州の福岡と区別をするためらしいのですが、なぜ「上」をつけたのでしょうか。旧国名を冠して武蔵福岡にしたり、方角を冠して東福岡にしたりするのが一般的だと思うのですが…。
この「?」は地図を見るとわかります。駅の東のほうに中福岡という住所があり、さらにその先には新河岸川の流れが確認できます。川に近づくにつれて標高は低くなっていくでしょうから、おそらく下福岡という地名もあったのでしょう。上福岡という地名は、福岡と区別するために新たにつけられたものではなく、古くから使われていたのでしょうね。

さて、そろそろこのややこしい地名の謎解きにかかりましょう。
そのヒントの1つが、下の2枚の写真です。ふじみ野駅から市境を越えたあたりで見つけたのですが、左は上福岡市、右はふじみ野市になっています。しかも、ふじみ野市のものは明らかに上から貼り付けたものですよね。つまり、かつては上福岡市というのが存在し、その後合併によってふじみ野市ができたということですね。

ふじみ野市が誕生したのは2005年のこと。実は、この合併はもっと広い範囲でおこなわれる予定でした。1990年代に始まった合併に向けての協議には、富士見市、上福岡市、大井町、三芳町の22町が参加していました。そして、1993年に富士見市内に開業した新駅には、将来の合併を見越して、新市名に予定されていたふじみ野という名が付けられたのです。ところが、住民投票の結果、富士見市と三芳町がこの合併から離脱してしまいます。その後、一度は不成立となるかと思われた合併は、上福岡市と大井町によって実現しました。このときに付けられたのが、駅の名にもなっていたふじみ野市でした。各駅停車しか停まらない鶴瀬駅と上福岡駅に対して、ふじみ野駅は急行などの優等列車も停車するため利便性もよく、この命名が市の発展につながると考えたのでしょうね。駅の名を隣接市に奪われたような形になった富士見市としては、これに納得できるはずもないですよね。ふじみ野市の誕生に対抗するかのように、2010年には駅周辺の住所をふじみ野東・ふじみ野西と変更しました。これにより、富士見市にあるふじみ野駅や、両市に存在するふじみ野という住所のような、紛らわしいことが起こってしまったのです。

考えてみると、鶴瀬も合成地名、富士見も各地によくある地名で個性が感じられません。新しくつけられた地名であることがはっきりとわかるふじみ野を含め、この地域の地名のつけ方ってちょっと安易なんじゃないかなと思ってしまったのは私だけでしょうか。地名はわかりやすいものであることも大事ですし、土地の歴史を語るものでもありますからね…。

「?」はきっとそこにある
「?」を知ればおもしろい!
みなさんも、身近な「?」を見つけて楽しんでみてください。

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