~和歌山県和歌山市
階段の先の絶景編~
2025.02.07
みなさんこんにちは。
リンスタ社会科担当の白井です。
北海道を除く46都府県のうち、43の都府県名は漢字2文字で表記され、漢字3文字となっているのは、神奈川県、和歌山県、鹿児島県の3つだけです。このうち、神奈川と和歌山については地名のもとを辿るとそれぞれ〝金川〟と〝若山〟で、どちらも漢字2文字になるそうですが、鹿児島だけは古くから3文字だった記録が残っているようです。そういえば鹿児島県は漢字3文字の名字が多いことでも知られていますよね。これって偶然なんですかね??
さて、今回はその3県のうちの和歌山県に行ってきました。
47都道府県を五十音順に並べたときに最後になるこの和歌山という地名、都道府県名のなかでも美しい響きを持つ地名の1つだと思うのですがいかがでしょうか?
かつてのこの地域は「木の国」とよばれていました。地図帳で見ても、平地が少なく山地が多いことは一目瞭然で、木の国と呼ばれていたのも納得できます。和歌山県の資料によると、県の面積の約76%が森林だそうです。713年に出された諸国郡郷名著好字令によって、国名などの地名は漢字2文字にすることが決められ、木の国は〝紀伊国〟になりました。さらに、和歌山城を築いた豊臣秀吉が、和歌山市南部にある古くからの景勝の地である〝和歌の浦〟と、城の築かれた〝岡山〟を合わせて和歌山という地名をつけ、1871年の廃藩置県によって和歌山県が誕生したのです。漢字1文字の「木」から2文字の「紀伊」、そして3文字の「和歌山」へと変化していったのですね。「木」から「紀伊」はわかるのですが、「和歌」への変化はよくわからないですね。その「?」を確かめるべく、地名の由来となった和歌の浦を訪ねてみることにしました。
大阪からおよそ1時間で和歌山市駅に到着し、ここからはバスで移動します。上の地図で和歌の浦の位置を確認してください。和歌山市駅、和歌山城、和歌山駅のあたりが和歌山市の中心部ですが、そこから南へ5~6㎞ほどのところにある海沿いの地域が和歌の浦です。これまでの私のブログを読んでいる人からは「その距離なら歩けるでしょ!」と突っ込まれそうですが、この後を読んでいただければバスを使うことにした理由がわかると思います。
また、地図からは和歌の浦のあたりが山のような地形になっていることもわかります。市街地から南の平坦なところは、おそらく紀の川によって運ばれた土砂が積もってできた地形ですね。そうすると、和歌の浦のあたりの山は、かつては島だったのでしょうね。
出発してからしばらくは市街地が続いているのですが、後ほど訪ねる予定の紀州東照宮を過ぎたあたりから突然道が険しくなりました。道幅も狭くなり、カーブの多い道をアップダウンしながら進んでいきます。大きなバスを操作するドライバーの方は大変だろうなぁと考えているうち、和歌山市駅前のバス停からおよそ30分で下車予定のバス停に到着しました。
まず向かったのは、新和歌浦展望台です。バス通りから細い坂道を登って5分ほど進んだ先には、展望台と名のついている割には何も整備されていないスペースがありました。地面にはコンクリートが敷かれているので何かの跡地かもしれないなと思って調べてみると、かつてはここからさらに上に向かうロープウェーの乗り場があったそうです。今となっては何もないコンクリートの上を先に進み、目の前に広がったのが下の写真の風景です。天気の良さも相まって、まさに〝絶景〟でした。私の他に人の姿はなく、目の前の景色をゆっくり堪能することができました。
今からおよそ1300年前、この地を訪れた聖武天皇はきらきらと光が差す浜の光景にとても感動したそうです。この風景を末永く守るようにと、若の浦と呼ばれていたこの地の地名を「明光浦」とするように命じたのだそうです。その様子を見ていた歌人の山部赤人は〝若の浦に潮満ち来れば潟をなみ葦辺をさして鶴鳴き渡る〟と詠みました。もしかすると、目の前の光輝く海の風景は、聖武天皇が見たものと同じなのかもしれません。
バス通りに戻って少し歩くと、海岸へと降りる階段があるのに気がつきました。上からの風景に感動した私は、今度は近くでその海を見てみたくなり、その階段を下っていきました。海岸に下りて目の前に広がったのは、やはり光り輝く海の風景です。よく考えると、聖武天皇が山の上の方まで登るというのはちょっと考えにくいので、こちらのほうが天皇の見た風景なのかもしれませんね。
目の前には、真ん中に大きな穴のあいた岩がありました。これは蓬莱岩といって、パワースポットにもなっているそうです。岩の上を歩いて先のほうまで行かれるのですが、澄んだ水のなかには魚の姿も確認でき、磯遊びを楽しんでいる家族連れなどもたくさんいました。ここでもしばらくの間、ぼーっと海を眺めていました。
ここから海沿いの遊歩道を歩いて風景を楽しんでいたのですが、しばらくするともう一度先ほどのような高台からこの風景を楽しんでみたいと思うようになりました。そこで向かったのが和歌浦天満宮です。学問の神様として知られる菅原道真が、大宰府に向かう際にこの地に立ち寄ったことから創建され、福岡の大宰府天満宮、京都の北野天満宮とともに日本三大天神の1つとされることもあるそうです。
上の写真だと少しわかりにくいかもしれませんが、階段に敷かれている石が青みがかった独特の色になっています。この石は紀州青石といい、各地の庭園でも庭石として使われている石なのだそうです。しかし、この石の階段が登りにくかった…。一段ずつの高さが高くてとても急な階段になっているのです。途中で後ろを振り返ると、なんだか転げ落ちそうな恐怖感を覚えました。50段程度の階段なのですが、正直この上りはきつかった…。でも、息を切らしながら登り切って見た景色は予想通りとても素晴らしく、改めて和歌の浦の美しさに感動しました。参拝を済ませた後、下りは別ルートの少し緩い坂を使いました。さすがにあの階段を下るのは恐かったんです💦
今度は天満宮の隣にある紀州東照宮に向かいます。
紀州藩主となった、家康の十男徳川頼宣によって創建されたこの神社には、家康と頼宣が祀られています。ここの参道にも、先ほどの青石が敷き詰められていました。その先に現れたのが、紀州藩の武士たちが頼宣の指揮で石を積んだことから侍坂と呼ばれる108段の石段です。
天満宮の階段の倍以上あるので、きっとこの上の景色は見事なものに違いないと思い、再び階段を上って行きました。段数はこちらのほうが多いのですが、天満宮の階段に比べればそれほど苦もなく、途中で休むこともなく一気に上り切りました。そして、階段上の門をくぐったところで振り返って見たのが下の写真の風景です。
絵に描いたような風景っていうのはこういうものなのでしょう。門の装飾の美しさも加わり、本当に1枚の素晴らしい絵画のようです。まちがいなく和歌の浦のベストビューと言える風景でしょう。私も時を忘れて茫然と見入ってしまったのでした。階段を上った疲れなど、一気に吹き飛んでしまいましたね。
徳川御三家の東照宮だけあって、拝殿の彫刻なども見事なものでした。残念ながら写真撮影禁止だったので、ここで紹介できないのが残念です。
平安時代になると、高野山や熊野に参詣した貴族たちが、その帰りにこの地を訪れるようになります。そして、この地の美しさを和歌に詠んでいったのです。『古今和歌集』を編纂した紀貫之が、先ほどの山部赤人の歌を高く評価したこともあり、この地は歌を嗜む貴族たちにとっての憧れの地となっていったのだそうです。
さらに、玉津島神社には、和歌の名人でもあった衣通姫が祀られていたこともあり、いつしかこの地は〝和歌の聖地〟となっていきました。このようなことから〝若の浦〟は〝和歌の浦〟となり、やがて秀吉によって和歌山という地名がつけられたのです。このような経緯を考えると、和歌山という地名がとても雅なものに感じられてきました。
再びバスに乗り、最後に訪れたのが紀三井寺です。今度は、別の角度からこの海の風景を眺めてみたくなったのです。
紀三井寺が開かれたのは770年のこと。1200年以上の歴史のある名刹です。寺の名は、「吉祥水」「楊柳水」「清浄水」の3つの名水の湧く井戸があったことに由来し、その井戸は紀三井寺の境内に現存しています。
門をくぐると現れるのが231段の階段です。和歌浦天満宮が50段、紀州東照宮が108段でしたから、今度はさらに倍以上。長い階段を前に一瞬怯みましたが、絶景が見られると信じて覚悟を決めました。上って行く途中には楊柳水と清浄水があり、それらに立ち寄りながら進んだので、いつの間にか上までついてしまったような感覚でした。
階段を上り切った本堂の近くから見た風景が下の写真で、予想通りの美しい風景を楽しむことができました。紀三井寺には有料のケーブルカーもありますので、そちらを利用することもできます。でも、息を切らして上ったからこその感動というのもあると思うんですよね。
ここまで読んでいただいて、今回は珍しくバスを使って移動していた理由がわかっていただけたでしょうか? スマホを確認したところ、この日上った階数はなんと〝43階〟分でした。でも、古の貴人たちも、きっと苦労して上に登って和歌の浦の風景を楽しんだに違いありません。そう考えると、とても風流な体験をしてきたのだと、しみじみ感じ入ったのでした。
ところで、出発前にバスのルートや料金を調べていたら、バス代を1回ずつ払うよりも一日乗車券を買ったほうがお得ということがわかりました。こういうのって現地に行かないと買えないものが多かったのですが、ここのバスの一日乗車券は事前に購入することができ、乗降の際はスマホの画面を見せるだけでよいという便利なものでした。おかげで少しの移動でも気軽にバスを使うことができたのです。
首都圏に住んでいると、Suicaなどの交通系ICカードでバスに乗れるのがあたりまえですが、地方に行くとそれらのカードが使えない場合も多いんです。いちいち小銭を出すもの面倒だし、その地域だけで使えるカードを買うのもムダが出てしまうことがあります。地方に旅行する際にバスを使う場合には、お得な乗車券などがないかどうかを調べてみることをお勧めしておきます。
「?」はきっとそこにある
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みなさんも、身近な「?」を見つけて楽しんでみてください。
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