白井亨(しらいとおる)

~千葉県船橋市ほか 変わりゆく風景編~

2024.09.20

みなさんこんにちは。
リンスタ社会科担当の白井です。

下の写真は、千葉県習志野市にある新京成電鉄の新津田沼駅ですが、この風景は間もなく見られなくなってしまいます。
まず、奥にあるイトーヨーカドーですが、2024年9月29日に閉店が決まっています。この店舗は、かつて全国のイトーヨーカドーのなかで売り上げがトップだったこともあるそうですが、やはり時代の波には逆らえなかったということなのでしょうかね。そういえば、クレヨンしんちゃんのサトーココノカドーで有名な春日部の店舗が閉店するニュースもありましたね。
そしてもう1つ、新京成電鉄も、2025年4月1日に京成電鉄と合併し〝京成松戸線〟になるそうです。もともと京成電鉄の子会社でしたが、車両の形やその色など、独立した路線としての魅力もありました。親会社の経営が低迷するなかでも安定した経営を続けていた時期も長く、京成グループのなかでも一定の存在感があった会社です。

さて、新京成電鉄というのは、千葉県習志野市の京成津田沼駅と千葉県松戸市の松戸駅を結ぶ全長26.5㎞の路線です。京成津田沼駅では京成線、新津田沼駅ではJR総武線、北習志野駅では東葉高速線、新鎌ヶ谷駅では東武野田線と北総線、八柱駅ではJR武蔵野線、松戸駅ではJR常磐線と接続します。沿線には住宅地が多く、これらの接続駅から東京都心に向かう通勤・通学客が多く利用している路線です。

下の地図の赤い線が新京成電鉄の路線ですが、やたらとくねくね曲がっているのがわかりますね。地図中にも示しているように、京成津田沼~松戸間は直線距離だと約16㎞しかないのに、路線の全長は26.5㎞と10㎞以上も長くなっているのです。なぜこんなにも遠回りをしているのか、これは「?」ですね。

この鉄道の歴史をたどると、もともとは旧日本陸軍鉄道連隊が演習用として建設したものでした。鉄道連隊というのは、戦地で鉄道の建設や修理をしたり、敵の鉄道を破壊したりするなどの任務をするための軍隊です。現在の輸送の主役は自動車ですが、昔は鉄道がその役割を担っていました。戦地で鉄道を利用できれば、兵員や武器の大量輸送も円滑にできるはずです。
この鉄道では、線路を敷く訓練だけでなく、その線路を使って運転の訓練もすることから一定以上の距離も必要で、陸軍の規定では45㎞以上の距離が必要とされていたそうです。どうやらこれが遠回りの路線になったことの理由のようですね。まっすぐの路線では運転が簡単すぎますから、訓練のためにはある程度のカーブがあったほうがいいということもあるでしょうね。今でも十分に遠回りをしているこの路線、鉄道連隊のころにはさらにくねくねと曲がっているところがあったようで、鎌ヶ谷市内には下の写真のような橋脚が残されています。この橋脚跡は鎌ヶ谷大仏駅の北西約1.5㎞にある公園内にあり、その位置からはどれくらい遠回りをしていたかということが想像できます。

でも、地図を見ると理由はそれだけではないような気がするのです。
下の地図を見てください。青い点線が新京成線の路線ですが、前原駅から高根公団駅に向かうにはほぼまっすぐ北上すればいいのに、大きく東に迂回しているのがわかりますね。前述した通り、距離を稼ぐということもあるでしょうが、高低差のわかる地図を使うともう1つの理由が見えてきます。

今度は下の地図を見てください。
赤い矢印のようにまっすぐ進んでいくと、いくつかの〝谷〟を通過しなければならず、実際の路線は谷を避けて迂回していることがわかりますね。

もう1か所確かめてみましょう。今度は鎌ヶ谷市あたりの地図です。
先ほどの区間よりも、かなり急なカーブがつくられていることがわかります。矢印のようにまっすぐ進むと、やはり〝谷〟を通過しなければなりませんね。この急カーブも同じ理由でつくられているということがわかります。つまり、この路線は地形に逆らわずに敷かれているのです。

では、なぜ谷を避けて線路を敷く必要があったのでしょうか?

谷を通過するには、そこに橋を架けるか、台地と谷の間に坂を設けるかしなくてはなりません。橋を架ける場合、平らなところに線路を敷くのに比べ、手間も時間も多くかかってしまいます。また、昔は蒸気機関車を使っていましたから、坂を多くすると運行に支障が生じることも多かったはずです。軍事目的の路線ですから、建設はできるだけ迅速に、実際の輸送はできるだけ円滑にすることも求められているはずです。このようなことから、できる限り谷を避けて台地の上だけを通るように建設した結果、カーブが多くなったというのも、くねくねの理由の1つだと思います。

そういえば、新京成線のカーブの理由には「新京成のカーブが多いのは、敵の飛行機からの攻撃を避けるため」というのもあるそうです。子どもの頃は「ふーん、そうなのか…」と納得していたのですが、今考えるとおかしな話のように思えます。
鉄道には線路があるわけですから、線路の形状を見れば列車の動きはわかってしまいます。カーブで攻撃しにくいならば、直線区間に入るのを待って攻撃をすればいいだけです。そもそも、その程度の動きで攻撃を回避できるとは思えません。もちろん私は飛行機を操縦できるわけではないので、もしかすると実際には的が狙いにくくなるのかもしれません。でも、当時の蒸気機関車のスピードは現在の電車ほど早いものではありませんし、カーブではさらにスピードを緩めなければなりません。そういったことから考えても、この説は違うような気がしますね。

さて、ここまで新京成の迂回の理由として、距離を稼ぐことと地形に逆らわないようにすることを挙げてきましたが、最後にそれだけでは説明できないところを紹介しましょう。

下の地図を見てください。黄色の点線が現在の新京成線の路線です。

京成津田沼駅を出発した電車は、3つの急なカーブを通過しなければいけないことがわかります。まるでアルファベットの〝S〟の字のようですね。
最初のカーブの理由は、地図を見ればわかりますよね。京成津田沼駅のある場所は谷、隣の新津田沼駅がある台地上なので、この2点を結ぶ坂を緩やかにするために線路を迂回させているのです。でも、2つ目のカーブと3つ目のカーブは両方とも台地上にありますから、地形が理由ではなさそうですね。

実は、このS字カーブには次のような理由があるのです。
新京成線が最初に開通したときの始発駅は新津田沼駅で、京成津田沼駅へはまだ乗り入れていませんでした。そして、その新津田沼駅が置かれたのが地図中の①の場所になります。これはおそらく、JR総武線(当時は国鉄総武線)の津田沼駅との乗り換えをしやすくするためでしょう。
開通から5年後、京成津田沼駅への路線が開通します。その際に、地図中の水色の点線のようにまっすぐ京成津田沼駅に向かうルートが建設され、新津田沼駅は②の場所に移転されます。つまり、S字の上の部分のカーブがなくなったということですね。
ところが、このルート上にできた2代目新津田沼駅は、JR津田沼駅との距離が遠くなってしまいました。初代新津田沼駅からだとおよそ400mほど遠くなったことで、JRへの乗り換えがとても不便な状態になってしまいました。おそらく利用客からもクレームが多かっただろうということが想像できますね。
そこで新京成は途中で線路を2つに分け、再び初代新津田沼駅のあった場所に駅を設けました。これが3代目新津田沼駅で、②の位置にあった2代目新津田沼駅は藤崎台駅と改称されました。これにより、松戸駅方面から来た電車は、新津田沼行きと京成津田沼行きの2つの行き先ができたということになります。
このことによって、今度は「2つの行き先があるのはわかりにくい。しかも駅名も似てるし…」といった声が大きくなっていったそうです。乗り間違えて長い距離を歩かなければならなくなった人も少なからずいたのでしょうね。
そこで、今度は2つのルートを1つにして、行先も1つにしようとしたのです。
①の駅の直前で大きくカーブし、その先に4代目となる新津田沼駅を設けました。さらに、もともと京成津田沼駅に向かっていたルートにつなげるために、また大きなカーブを設けました。こうしてできあがったのがこのS字カーブだったのです。

この区間は、もちろん電車に乗っていてもおもしろいのですが、電車を見るのもなかなかおもしろいですよ。
下の写真は、京成津田沼駅を出た電車が1つ目のカーブから2つ目のカーブに差し掛かるところを撮ったものです。電車もS字に曲がっていますよね。
また、こちらに向かって走ってきているように見えた電車が、突然向きを変えて逃げていくように見える地点もあります。それがどこなのかは、ぜひ地図を見て考えてみてください。

新京成の電車は、上の写真のようにちょっと可愛らしいピンク色に塗られています。駅の看板や系列のバスなどにもこのピンクが使われていて、新京成線のイメージカラーとなっています。
来年4月に京成線の路線の一部となると、この色もなくなってしまうのでしょうかね…。

子どものころに新京成線の沿線に住んでいた私は、数えきれないほどこの電車に乗ってきました。まだ古い電車を使っていたころのけたたましいモーターの音も、はっきりと記憶の中にあります。最近は乗る機会もめっきり少なくなり、この路線自体がなくなってしまうわけではないのですが、昔からあたりまえにあった風景が変わってしまうというのは、やはり寂しいものですね。

「?」はきっとそこにある
「?」を知ればおもしろい!
みなさんも、身近な「?」を見つけて楽しんでみてください。

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