白井亨(しらいとおる)

~茨城県水戸市 横長の街の理由編~

2024.08.09

みなさんこんにちは。
リンスタ社会科担当の白井です。

茨城県の県庁所在地となっている水戸市は、東京からJR常磐線の特急電車でおよそ1時間半、人口約26万7000人の都市です。同じ北関東の県庁所在地では、栃木県宇都宮市が約51万人、群馬県前橋市が約33万人ですから、人口では前橋よりも少しだけ小規模な都市ということになるでしょう。

水戸市を訪れたのは今回が3回目でした。過去2回の訪問の目的はいずれも同じで、茨城の冬の味覚を代表するアンコウ鍋を食べることでした。そのときに感じた水戸の街の印象は「横長の町」 …なぜそのような印象を持ったのか、3回目の訪問にして初めて水戸の街を歩き、その「?」を解き明かしてみることにしたのです。

一般的に、大きな駅からは「駅前通り」が鉄道の路線とは垂直の方向に伸びていることが多いと思います。みなさんも「駅前通り」と聞くと、駅を背にしてまっすぐに伸びている広い道を思い浮かべると思います。以前に紹介した北関東の都市は、宇都宮市も前橋市も高崎市もこのような構造になっていました。

下の地図を見てください。水戸駅を含む常磐線の線路は、北に那珂川なかがわ、南に千波湖せんばことそれに続く桜川に挟まれた狭いところを東西方向に通っています。そして、水戸駅前のメインストリートとなる国道50号線も、同じように東西方向に伸びているのです。この国道50号線を西に1.5kmほど進んだ、地図中の円で囲まれたあたりが水戸市の繁華街となっています。アンコウ鍋を食べた店もたしかこのあたりにありました。

でも、地図を見ると、北へ向かって那珂川を越える橋(水府橋)に続く道がありますよね。この道沿いに町ができてもいいと思うのですが、なぜか道の周辺にはあまり建物らしきものが見当たりません。これも「?」ですね。

この「?」は標高のわかる地図で見ると解くことができます。
下の地図は、先ほどの地図とまったく同じ範囲を示しています。水戸駅の北には、西から東へ台地状の地形が延びていることがわかりますか。駅のあるところとの標高差は20m以上ありますので、もしそのまま北に向かう道を通したらとんでもない急坂を上り下りすることになりますね。

あれ? でも、北に向かう道は存在しているんですよね…。

もう一度地図を確認してみましょう。先ほどの地図と比べながら見てみると、台地と台地の間に溝のようなものがあって、橋に続く道路はその溝を通っていることがわかりますね。

この台地上には、徳川御三家のひとつ水戸徳川家の居城となっていた水戸城があり、この溝は城の防御のために築かれた堀だったのです。地図中にある千波湖は、かつては水戸駅の南側あたりまで広がっていました。水戸城は、那珂川と千波湖に挟まれた細長い台地の上に築かれていたのです。
水戸駅北口を出てペデストリアンデッキを進んでいくと、ビルの隙間から城の建物が見えます。これは水戸城二の丸すみやぐらで、2021年に復元されて公開されました。この建物の位置を見ても、駅と城跡のある台地との標高差がわかります。

では、水戸城に向かって歩いていくことにしましょう。下の地図は、城内のおもな場所を示したものですので、こちらを見ながら読み進めていってください。

まずは本丸に向かうことにします。本丸というのは城の中心部分で、城主の居所などが置かれているところのことです。駅前から東に進んでいくと緩やかな上り坂となり、左に折れると二の丸の東の端に辿り着きます。実際に歩いてみると、やはりかなりの高低差があるということが確認できました。

二の丸と本丸の間には橋が架かっており、その下にはJR水郡線の線路が通っています。本来ならば、本丸は最後に辿り着くべきところなのですが、初めにここに向かったのは理由があります。水郡線は列車が1時間に1本くらいしか来ないローカル線ですので、下の写真を撮影するために時間を合わせる必要があったのです。おかげでちょうど良いタイミングで撮影ができました。

写真からも堀の深さがよくわかると思います。このような地形が自然にできるわけもなく、人の手でこれだけの規模のものをつくったということですよね。水戸城最大の見どころと言ってもいいほど、見ごたえのある場所だと思います。

本丸は、現在水戸第一高校の敷地となっています。城跡が学校として利用されているという例は、他の地域でもよく見られる事例です。
本丸には、水戸城の建物のなかで唯一戦災を逃れた薬医門という建物が残されています。橋を渡ってすぐのところに学校の校門があり、薬医門は学校の敷地内にあるですが、この門のところまでは一般の人も入ることができます。校門の先に入るのをためらう人もいるかもしれないですね。私が訪ねた時間は授業中だったようなのですが、休み時間になるとこの門の周辺に生徒たちが集まっていることもあるそうです。

再び橋を渡って二の丸に入っていきます。

二の丸に入ってしばらく進むと、那珂川を見下ろすことができる見晴台があったので、そこから写真を撮ってみました。川に架かるコンクリート橋は先ほどのJR水郡線です。下に見える家や線路と那珂川の水面の高さ、さらに先ほどの堀を走る列車の写真を比べてみると、水戸城が天然の要害であることがよくわかります。ちなみに「要害」とは、地形が険しく守るのに有利な場所のことをいいます。

二の丸には3つの学校(水戸第三高校、水戸第二中学校、茨城大付属小学校)があります。このあたりの道はこれらの学校の通学路でもあるので、登下校の時間は多くの生徒たちが通っているのでしょうね。道の両側にある塀は城壁のように整備されています。城跡を見に来る観光客のために整えられた道が通学路というのはなんとなく違和感があり、ここを多くの生徒たちが行き交う様子があまり想像できませんでした。先ほど駅から見えた二の丸角櫓は、水戸第三高校と茨城大付属小の間にある細い道を進んでいったところです。

さらに進んでいくと、下の写真の大手門があります。
この門は水戸城の正門だったのですが、明治時代に解体されてしまいました。現在の門は、当時の資料に基づいて2020年に復元されたものです。本来は、この門から入って二の丸、本丸と進んでいくのが正しいのですが、逆になってしまった理由は先ほど記した通りです。

二の丸と三の丸の間にはまた堀があり、ここに水戸駅から水府橋へ向かう先ほどの道路が通っています。階段があったので下の道路まで下りてみたのですが、かなりの高低差があるということが実感できました。

城の近くには、水戸藩に仕える多くの武士たちの屋敷がありました。もちろん身分社会ですから、本丸に近い台地の上に住んだのは身分の高い武士、本丸から離れた台地上や周囲の低地に住んだのは身分の低い武士というのは想像できますよね。大手門は正門ですから、おそらくここを境に明らかな身分の違いがあったのではないかと思います。

三の丸に入ると、正面には水戸藩の藩校だった弘道館があります。弘道館については次回触れる予定なので、今回はそのまま先へ進んでいきます。三の丸は、県庁や市役所の庁舎、図書館などの公共の施設が多く集まっています。そして、その先には下の写真のような空堀の跡が整備されています。本丸や二の丸の堀ほどではないですが、これもかなり高さのある堀ですよね。もしかしたら、当時はもっと深い堀だったのかもしれません。

昔の城の図を見ると、この堀の西にあと2つの堀があったことが確認できます。堀の数やその深さを考えると、水戸城はかなり堅固な城であったと言えるでしょう。深い堀は城の防御には役立ちましたが、現代の街づくりには邪魔になるので、埋め立てられてしまったのでしょうね。

さらに西に進んでいくと、最初の地図にしめした現在の繁華街があります。かつてここには水戸城の城下町がありました。ここで暮らしていたのは武士ではなく町人たちです。おそらくこの付近は、当時から賑わっていたのでしょう。最初の地図に記した国道50号線も、水戸駅前から上り坂となって台地の上に上がり、この城下町のあたりを貫いているのです。
繁華街の先には「大工町」という地名があります。昔の城下町では同じ職業の人々が集まって生活していましたので、このあたりには大工さんが多く住んでいたのです。昔はこの他にも様々な職業を表す地名があったはずです。たくさんの人々が生活していたこの付近には多くの店もあったのでしょうね。それが現在の繁華街に繋がっているというのは、考えてみれば自然なことなのかもしれません。

さて、最初の「?」についての答えはこのようになるのでしょう。

  • 那珂川と千波湖に挟まれた東に伸びた台地上の要害の地に水戸城が築かれた。
  • 台地の東端付近には城の本丸があり、西に進むほど身分が低い者が住む場所になった。
  • 町人が住んだ城下町はしばらく西に進んだところにでき、そこが繁華街となった。
  • 明治時代になって鉄道が開通したが、水戸駅は二の丸と三の丸の下あたりの低地につくられた。
  • 水戸駅と繁華街は東西方向の道で結ばれることになり、駅前通りと鉄道の線路は平行になった。

 

そして、このような位置関係になっている駅と繁華街を訪ねただけの私は、水戸市は「横長の町」という印象を持ったということですね。ちなみに、南口には南に伸びる駅前通りがありますので、こちらは明らかに「横長の町」ではありません。じっくりと歩いてみないと本当の街の姿はわからないということですね。

次に水戸を訪れたときには、城下町でアンコウ鍋を食べた後に、本丸へと〝城攻め〟を楽しんでみようと思います。

「?」はきっとそこにある
「?」を知ればおもしろい!
みなさんも、身近な「?」を見つけて楽しんでみてください。

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