~東京都 JR中央線 くねくねからまっすぐ編~
2024.03.15
みなさんこんにちは。
リンスタ社会科担当の白井です。
東京都心と多摩地域を結ぶJR中央線は、首都圏でも屈指の混雑路線として知られています。平日朝8時台の上り電車の本数はなんと26本。2~3分に1本の電車がやって来るというのに混雑するって、どれだけ利用者が多いんでしょうね。ちなみに、同じ時間帯の山手線は、内回り・外回りともに20本未満ですから、中央線の過密さは際立っています。
東京駅から中央線の電車に乗ると、新宿駅までの間はくねくねとカーブを縫うように走っていることがわかります。下の写真は御茶ノ水駅付近で撮ったものですが、大きくカーブしているのがわかります。
地図で見てみると一目瞭然です。
オレンジ色の点線が中央線のルートです。新宿駅は東京駅から見て西の方向にあるのですが、電車はまず北に向かいます。神田駅を出ると大きく左にカーブして西に向かうのですが、水道橋駅を過ぎるとまた大きくカーブして今度は南に向かいます。再び進路を西に変えた中央線は、新宿駅の手前でも大きくカーブして、南から新宿駅に入ります。東京駅のすぐ西側には皇居があるのでここを通れないのはわかりますが、いくらなんでも遠回りし過ぎという感じがしませんか?
まず北側への迂回ですが、ここまで迂回しなくても現在の靖国通りに近いところを通っていけば皇居を避けることができますね。なぜこんなに北側を通さなければならなかったのでしょう?
現在の東京ドーム付近には、陸軍の東京砲兵工廠という兵器工場がありました。中央線はその輸送を担う役割も期待されていたのです。
また、地形図を見るとこのルートに鉄道を通すことが困難なこともわかります。靖国通りを西に進んでいくと、途中で地図の色が変わることに気づくでしょうか? ここには下の写真の九段坂という坂道があるのです。下の写真の左足に小さく日本武道館が写っています。地下鉄の九段下駅から武道館へ行ったことがある人は、坂道を上って武道館に向かったことを覚えているかもしれません。鉄道は坂に弱いですから、ここを通過することは難しそうです。現在のルートである江戸城外堀沿いならば、勾配を気にする必要はなさそうですね。
1つ目の迂回の理由が解決したので、今度は2つ目の迂回についてその理由を探っていきましょう。
先ほどの地図をもう一度見てください。新宿駅に向かうには、やはり靖国通り沿いを西に進んだほうがよさそうです。先ほど紹介した東側の部分と違って、こちらは地形的な支障もなさそうです。
実は、この迂回の理由にも陸軍が関係しているのです。現在、国立競技場などがある神宮外苑には、青山練兵場という陸軍の訓練施設がありました。中央線には、この施設への輸送という役割も期待されていたのです。訓練場ですから、ここには多くの兵士を輸送しなければならないこともあります。千駄ヶ谷駅のあたりからはここへ向かう線路も伸びており、青山練兵場駅という駅まで設けられていたそうです。
地図をよく見ると、もう1つ理由があることに気づきますか?
靖国通り沿いに進んだ場合、新宿駅には北側から進入することになります。そうすると、八王子方面に進むには、列車の進行方向を変えなければならないのです。一見、無駄に遠回りをしているように見えますが、そこには路線が担う役割や地形など、さまざまな理由があったんですね。
さて、新宿駅を出た中央線は西に向かっていきます。すると今度は、これまでとは違う路線に思えるくらいの長~い直線区間となるのです。下の写真は、東中野駅近くの橋の上から西の方角を撮ったものです。一直線に線路が伸びているのがよくわかりますよね。
では、また地図で確かめてみましょう。
新宿駅を出て大きく左へカーブした中央線は、東中野駅から立川駅までずっとまっすぐ通っていることがわかります。約25㎞のこの直線区間は、本州では最も長い直線区間で、日本全体で見ても北海道の室蘭本線に次いで2番目に長いそうです。広い北海道ならばわかりますが、東京都心にも近いところでのまっすぐな線路は違和感があります。
鉄道ができる前、都心から西に延びていたのは甲州街道と青梅街道です。特に甲州街道は五街道のひとつにもなっていて通行量も多く、道沿いの宿場町などは賑わっていたことでしょう。一方、現在の中央線沿いは台地の上になっているので稲作には不向きで、甲州街道沿いに比べれば寂れていたのではないでしょうか。どう考えても、甲州街道に近いところに鉄道を引いたほうが利用客も多そうですよね。
甲州街道沿いの人々が鉄道開通に強く反対したという説もあるようですが、これはちょっと賛同できません。たしかに明治初期は鉄道の敷設に反対運動が起こったということもあったようですが、中央線の前身となる甲武鉄道が開通したのは1889年のことで、1872年の最初の鉄道開通から17年も経っています。すでに鉄道の有益性は人々に広く理解されているのではないでしょうか。
もう一度地図を見てください。甲州街道の南側には多摩川が流れています。この地図ではわかりにくいですが、甲州街道沿いには多摩川が武蔵野台地を削ってできた河岸段丘が連なっているのです。前述した通り、鉄道は坂道に弱い交通機関です。昔はパワーの劣る蒸気機関車を使っていたわけですから、なおさら勾配は避けたいわけです。前述した通り、中央線は台地上に敷かれているわけですから、勾配の心配はほとんどありません。甲州街道沿いの利用客を見込むよりも、当時の重要な輸出品だった生糸の集散地となっていた八王子と東京を結ぶことを最優先に考えた結果が、この一直線の線路なのではないでしょうか。
現在、甲州街道沿いには京王電鉄が通っていますが、一直線の中央線に対して、街道沿いの京王線はカーブも多くなっています。新宿~八王子までの所要時間は、中央線の特別快速が38分、京王線の特急が43分と、やはりスピードでは敵わないようです。でも、「あんなにまっすぐなんだからもっと差がつきそう」と思いませんか? 最初に書いた通り中央線は過密路線なのです。電車が詰まっているため、松本方面に向かう特急も八王子駅まではとてもゆっくり走っています。せっかくの直線の優位さが完全には活かされていないのは残念なことです。
「?」はきっとそこにある
「?」を知ればおもしろい!
みなさんも、身近な「?」を見つけて楽しんでみてください。
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