白井亨(しらいとおる)

~宮城県女川町 海の見える復興編~

2023.12.05

みなさんこんにちは。
リンスタ社会科担当の白井です。

2011311日に発生した東日本大震災では、巨大な津波が太平洋側の地域を襲い、たくさんの犠牲が出ました。特に被害が大きかったのが三陸地方ということは、みなさんもご存じのことと思います。
今回のテーマとなっている宮城県女川町では、死者・行方不明者827名、全壊家屋2924棟という大きな被害が出ました。当時の町の人口が約10000人だったので、人口の1割弱の尊い命が失われたということになります。

次の2枚の写真は、震災前と震災後のJR女川駅周辺のものです。

2枚の写真を比べると、同じ町のものとは思えないくらい、その様子が変化しています。
まず、女川駅の位置が変わっています。
震災のとき、女川駅に停まっていた列車は津波によって押し流されてしまいました。当時の駅があった位置から200m、高さにして10mも高いところまで流されていたそうですから、津波の力の凄まじさを感じます。震災後の駅は、震災前よりも200mほど内陸に移転しているそうです。
震災前の女川駅周辺には、たくさんの住宅があることがわかります。駅の南北、港の方向、駅北東の川沿いといったところにも人々の暮らしがありました。震災後の写真を見ると、そのほとんどすべてがなくなっていることがわかるはずです。その分、かつては緑に覆われた山だったところに住宅地が建設されていますね。2枚の写真からもわかるように、女川の町は大きくその姿を変えたのです。

下の写真は、旧女川交番という震災遺構です。
鉄筋コンクリート2階建ての建物が、津波によって倒されたままの姿で残されています。津波によって一度は水中に沈んだこの建物は、津波の引き潮によって地中の基礎が引き抜かれて、そのまま横倒しになったのだとか…。凄まじい破壊力に言葉もありませんでした。女川では、この他にも数棟の鉄筋コンクリート製の建物が倒れてしまったそうです。

交番というのは、普通は町中の人通りの多いところにあるものですよね。きっとこの交番のまわりにもたくさんの人々の生活があり、たくさん日常があったのでしょう。それらをすべて津波が奪い去ったのですね。この遺構を見るだけでも、震災前の女川の町が壊滅したのだということが伝わってきます。

さて次の写真は、女川駅から港の方向を撮ったものです。
震災直後の映像を見ると、ここから見える範囲にあった建物はほぼ破壊しつくされていました。
現在は駅からまっすぐに伸びる道があり、先のほうには商店街があります。さらにその先には青い海が見えます。見事に復興を遂げた女川の町が、きれいに整備された様子がよくわかりますね。

…が、この風景を目の前にした私は、不思議な違和感を覚えたのです。

「なんで海が見えるんだろう?」

この町を壊滅させたのは津波です。津波から町を守るには防潮堤が必要で、それがあればこんなに海は見えないのではないでしょうか。
同じように津波被害を受けた三陸地方の町では、巨大な防潮堤を整備したところがあります。例えば、震災前から高さ10m防潮堤が築かれていた岩手県宮古市の田老地区では、震災の後さらにその高さを高くしたそうです。下の地図の緑の点線がその防潮堤になります。こんな防潮堤があれば、津波から町を守れそうですが、東日本大震災の津波は、この防潮堤を越えて町に襲い掛かったのです。もちろん、こんなものが築かれていれば、町から海を見ることはできないでしょうね。

ところが、女川駅からは、先ほどの写真のようにはっきりと海が見えるのです。
…ということは、防潮堤はつくられていないってことなのでしょうか?
いったい女川の防災はどうなっているのか、これは「?」ですね。

女川復興の際のキャッチフレーズは「すべての家から、海の見えるまちづくりをめざそう」というものだったそうです。もちろん、ただ海が見えるだけでは津波から町を守ることはできません。普通なら、壁のようになってしまう防潮堤ですが、女川では海沿いの道路の下に隠したのだそうです。さらに、女川駅方向に向かうにつれ、少しずつ標高が高くなるようにしていき、そこに商店街や駅を建設しました。土地のかさ上げに必要な土は、山を削って運んできました。そして、その山を削ってできた高台の土地に住宅地を建設することで、住民の生活を津波から守っているのです。

震災前の女川には、高さ3mの防潮堤が築かれていたそうです。女川を襲った津波はおよそ15mですから、防潮堤は役に立たなかったわけですね。しかも、防潮堤によって海が見えなかったことで海の様子がわからず、そのために避難が遅れた人々がいたのだそうです。

女川は、昔から漁業の町として知られています。人々の生活と海とは切っても切り離せないものなのです。
商店街にはたくさんの観光客が訪れていました。これだけの観光客が来るのなら、漁業だけでなく観光も大きな町の収入減になるかもしれません。そんな観光客の1人だった私も、津波が襲ったということをまったく想像できないくらいの穏やかな海を眺め、「女川の人々が選んだ復興の道は本当に素晴らしい」と拍手を送りながら美味しい海鮮丼をいただいたのです。

「?」はきっとそこにある
「?」を知ればおもしろい!
みなさんも、身近な「?」を見つけて楽しんでみてください。

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