白井亨(しらいとおる)

~東京都江戸川区 川を越える地下鉄編~

2023.11.14

みなさんこんにちは。
リンスタ社会科担当の白井です。

地下鉄というのは、文字通り地下を走る鉄道のことで、一部の例外を除いてその姿を地上で見ることはありません。そういえば「地下鉄の電車はどこから入れたの?」っていう漫才がありましたね。昭和の時代ですけど…(笑)
地下鉄が地上を走る区間として有名なのが、東京メトロ銀座線の渋谷駅です。地下にある表参道駅を発車した電車は、渋谷駅に到着する直前に地上に出て、地上3階にあるホームに到着します。これは、このあたりの地形に理由があるんです。

上の地図を見てください。オレンジ色の点線が銀座線の経路です。また左上には、赤い矢印で示したところの断面図を添えてあります。
これを見ると、台地の地下を通っていた銀座線が、谷底のような地形の渋谷駅に着く前に地上に出ることがよくわかりますよね。早い時期に開通した銀座線や丸ノ内線は比較的深度の浅い地下を走行しています。東京は台地と谷が多いところなので、この2つの路線は地下鉄でありながら地上を走行するというシーンが見られるのです。ちなみに、銀座線の全通は1939年、丸ノ内線の全通は1954年です。

今回のテーマとなる都営新宿線は1980年代後半に開通した路線ですので、新しい地下鉄と言っていいでしょう。それなのにこの路線、一部の区間で地上を走り、下の写真のように川を橋梁で越えていくのです。

同じように、川を橋梁で越える路線としては、東京メトロ東西線があります。しかし、東西線の場合は江東区にある南砂町駅を出ると程なく地上に出て、そのまま終点の西船橋駅までずっと地上を走ります。これは、東西線が全通した1969年当時、特に千葉県内の沿線には住宅などが少なく、工事のコストがかかる地下を通す必要がなかったからというのが理由のようです。
ところが、都営新宿線は一度地上に出て、東大島、船堀の2駅を過ぎるとまた地下に潜っていくのです。東西線が開通したと時と比べて沿線の都市化は進んでいるでしょうから、地下を通さなければいけないことはわかります。それならなぜ、一度地上に出なければならなかったのでしょうか? これは「?」ですね。

では、このあたりの地図を見てみましょう。
下の地図に赤い線で示した部分が、都営新宿線が地上に出ている区間になります。こうして見ると一目瞭然ですね。赤い線の下には大きな川が流れていて、その川を越える部分だけが地上に出ています。つまり、地下を走っていた都営新宿線は、これらの川を越えるためだけに地上に出たということになります。

それではなぜ、これらの川の地下を通ることができなかったのでしょうか?

そのヒントは、上の地図の「色」にあります。全体的に青色が目立ちますよね。地図中の薄い青色は標高0m~マイナス1m、濃い青色は標高マイナス1未満の土地であることが示されています。
下の写真は、地図の東側の堤防を撮ったものなのですが、右側の中川の水面と比べて、左側の住宅の位置が明らかに低くなっているのがわかります。まさに〝ゼロメートル地帯〟なんです。

こういう土地は地盤が脆弱になっており、地下鉄を通すには通常よりも深く掘る必要があります。また、中央を流れている荒川は、流域の洪水リスクを軽減するために建設された人工の放水路です。人工の川ですから、その川底も不安定なのです。この区間を地下で通そうとすると、多額のトンネル建設費がかかるだけでなく、その後の出水にも悩まされるのではないでしょうか。そうすると排水設備のための費用も莫大になりそうですね。「それだったら地上を通したほうがいいんじゃない?」という結論となっても不思議ではないですよね。地下から地上に上がって川を越え、また地下に入るというのは、一見面倒に思えるのですが、実は建設が容易な方法だったのです。

この地域が昔から水辺の土地であったということは、地上区間の東側にある都営新宿線の駅名からもわかります。それが〝船堀駅〟です。その字を見ただけで水に関係があることがわかりますよね。
前回のブログで、千葉県行徳にあった塩田でつくられた塩を輸送するために、小名木川が建設されたことを書きましたよね。その小名木川とともに輸送路となっていたのが、船堀駅の南側を流れている新川だったのです。新川は江戸川と中川を結ぶ水路です。船堀が位置している中川との合流点には、かつて船を泊めておくための堀があったのです。

地図を見ると、隣にある東大島駅もちょっとおもしろい位置にあることがわかります。
下の写真のように、この駅は川を跨ぐようにつくられているんです。もう少し東か西に寄せればいいのにと思いますが、東に寄せると川の中州なので土地が狭すぎるし、西に寄せると中州部分の人たちにとって不便になってしまうのでしょう。

調べてみたら、このような形の駅は他にもいくつかあるようです。東京だと、京急線の新馬場駅などがそうですね。この駅のことはいずれブログに取り上げてみたいと思っています。兵庫県には、ホームのほぼ全部が川の上にあるという駅もあるんです。そんな駅で降りたら、いったいどうやって外に出ればいいんだろう?? 気になる人は、ぜひ調べてみてくださいね。

船堀駅を降りると、目の前にそびえ立っているのが下の写真の「船堀タワー」です。

展望台の高さは103mあるそうで、目の前を流れる荒川や中川の流れだけでなく、東京ディズニーリゾートなども見えました。私が行った日は雲が多かったのですが、晴れた日は富士山なども見えるそうです。なんとこのタワー、都内三大タワーの1つにもなっているんですよ。ただし、東京スカイツリーや東京タワーからの眺望を楽しんだことがある人は、一度その記憶をリセットしてから来たほうがいいでしょう。他の2つとは異なり、船堀タワーは「無料」で展望室に上ることができます。無料なんですからね! あんまり過度な期待はしちゃダメですよ!

展望台からは、都営新宿線が地下に潜っていくところも見ることができます。川の上を走ってきた電車が船堀駅を通り過ぎて地下へ入っていくのを見ているのも、なかなか楽しいものでした。

「?」はきっとそこにある
「?」を知ればおもしろい!
みなさんも、身近な「?」を見つけて楽しんでみてください。

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