~長野県松本市 国宝五城のひとつ松本城編~
2023.10.17
みなさんこんにちは。
リンスタ社会科担当の白井です。
みなさんは「城」というとどんな姿をイメージしますか?
多くの人は、高い石垣や天守(天守閣)を思い浮かべると思います。みなさんが思い浮かべたのは、天守の高さが日本一の大阪城のものでしょうか? それとも金の鯱で有名な名古屋城のものでしょうか? あるいは黒塗りの堂々とした姿が印象的な熊本城のものでしょうか?
しかし、日本にある城の天守の多くは現代になってから再建されたものなのです。前述の3つの城はすべて鉄筋コンクリートでできており、大阪城なんて天守の中にエレベーターがありますからね(笑)
築城当時から残っている天守は、弘前城(青森県)、松本城(長野県)、丸岡城(福井県)、犬山城(愛知県)、彦根城(滋賀県)、姫路城(兵庫県)、松江城(島根県)、備中松山城(岡山県)、丸亀城(香川県)、松山城(愛媛県)、宇和島城(愛媛県)、高知城(高知県)と、全国でたった12しかありません。これを「現存12天守」といいます。
さらに、現存12天守のうち国宝に指定されているのが5つあり、そのうちの1つが今回のテーマとなる松本城です。それでは、いつものように5つの国宝の城を地図で確かめてみましょう。
まずは、松本城を除く4つの城の地図を並べてみます。4つの城には、その立地に共通点がありますね。どうでしょうか、気づきましたか?
4つの城はすべて小高い山の上にあり、その周囲には平地が広がっています。このような城のことを「平山城(ひらやまじろ)」といいます。
城にはおもに3つのタイプがあります。古い時代から多く築かれていたのが「山城(やまじろ)」というもので、これは文字通り山に築かれた城です。天然の地形を利用しているので防御力に優れ、城を築くのにも大掛かりな工事はあまり必要ありません。ただし、山の上ですから普通の生活をするにはいろいろと不便でしょうし、特に水を得るのは困難なこともあったでしょう。また、城を中心とした大規模な町づくりもできないですね。その点「平山城」は防御と町づくりの両立が可能で、近世の城はこのタイプが多くなっていきます。
次に、松本城の地図を見てみましょう。
他の4つの国宝の城とは異なり、松本城は平地に築かれた城だということがわかります。このような城のことを「平城(ひらじろ)」といい、地形上の制限がなくなるので自由に大規模な町づくりができるということが利点です。その一方で、防御に関しては山城や平山城には及びません。しかも、石垣など大規模な工事が必要になるので、どちらかというと戦いの少なくなった時代の城という印象が強いですね。
話を松本城に戻します。まずは松本城の歴史を振り返ってみましょう。
前回も書きましたが、室町時代にこの地を本拠地としたのが守護の小笠原氏です。小笠原氏の居城はここではなく、松本城の南東にある山に築かれた林城でした。この場所は、防御にも適している上に松本盆地を広く見渡すことができるので、守護の拠点としては都合がよさそうですね。
ところが、その小笠原氏を倒してこの地に入った武田信玄は、現在の松本城につながる深志城を本拠地とします。深志城には、信玄の
まずは城の防御について、上の地図から考えてみましょう。
松本城の北と東には険しい山々があります。また、西側も山が伸びているので、これらの方向から攻めるのは困難です。松本盆地は、城の西と南の方向に広がっていますので、こちらの方向からの攻撃は容易ではないかと思います。ところが、城の南と西の方向には、地図に書き入れた通り多くの川が存在します。これらの川は自然の堀の役割を担いますから、松本城は何本もの防衛ラインに守られているということもできるのです。平城で一見防御力は弱そうな松本城ですが、よく見てみると意外に堅固な城だということがわかりました。ただし、あくまでも「意外に」であって、山城や平山城に比べれば防御力という点では劣ります。
では、あえて平城を選んだ信玄の意図は何でしょうか?
前回のブログを思い出してみてください。松本は交通の要衝でしたよね。
実は、平城のもう1つの利点として「街道に出やすいので軍隊を迅速に動かせる」というのがあります。そして、松本からつながる場所とはどこでしたでしょうか?
1つは武田氏の本領である甲斐国、そして北に進めば善光寺でしたね。善光寺がある長野盆地には「川中島」があります。そうです。言わずと知れた武田vs上杉の激しい戦いがおこなわれたところです。甲府を出発した武田軍は、その中間地点にあるここ松本で軍勢を整え、川中島に進軍していったのではないでしょうか。多くの兵が集まれる場所を確保するためには、このような平城のほうが適しているはずです。さらに、これも前回書きましたが、松本は水が豊富な場所です。多くの人を養うことができる水の心配もない松本は、大軍の集結地としてふさわしいでしょうね。川中島での激しい戦いの後も、この地で体制を整えてから甲府に戻ったのかもしれません。
現存12天守のなかで、五層の天守が見られるのは松本城と姫路城の2つだけです。白を基調にした姫路城に対し、松本城は黒を基調としています。これは人によって好みの分かれるところかもしれませんが、内堀の水面越しに見るその姿はとても美しいと思います。ちなみに、松本城を「烏城」と呼ぶのは間違いだそうで、松本市のホームページにもはっきりと「烏城は誤りです」と書いてあります。確かに「烏城」と聞いて思い浮かぶのは松本城ではなく岡山城ですね。
松本城だけの魅力をもう1つ挙げるとすると、それは背景の美しさではないでしょうか。上の写真を撮った日はあまり天気が良くなかったのですが、天守の背後には北アルプスの山々が見えます。これは姫路城にはない魅力です。戦いに疲れた武田軍の兵士たちも、この美しい山々の景色を見て癒されたかもしれませんね。
空気が澄んだ冬の日ならば、もっときれいに山々が見えることでしょう。ただし、標高の高い松本の冬は厳しいですよ。1月の平均気温は0℃を下回りますので、寒さ対策は入念にしていってくださいね。
「?」はきっとそこにある
「?」を知ればおもしろい!
みなさんも、身近な「?」を見つけて楽しんでみてください。
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