白井亨(しらいとおる)

~栃木県宇都宮市 「75年ぶり」に注目です。編~

2023.08.04

みなさんこんにちは。
リンスタ社会科担当の白井です。

北海道札幌市、函館市、富山県富山市、高岡市、愛知県豊橋市、岡山県岡山市、広島県広島市、愛媛県松山市、高知県高知市、長崎県長崎市、熊本県熊本市、鹿児島県鹿児島市…これらの都市には共通することがあるんですけど、何だかわかりますか?

答えは「路面電車が走っている都市」です。

路面電車というのは、おもに道路上に敷かれた軌道上を走る電車のことで、かつての日本の大都市では主要な交通機関として活躍していました。
東京でも、1950年代くらいまでは路面電車が都市交通の主役でした。現在の東京では、多くの地下鉄によって複雑な交通網が形成されていますが、それらのほぼすべてが路面電車の路線だったと想像してみてください。最盛期には総延長約213 km、1日約175万人が利用していたそうです。ところが、自動車が普及するようになると、路面電車は邪魔な存在になっていきます。次々と路線が廃止になり、1970年代の前半には、現在の東京さくらトラム(都電荒川線)を除き、すべてなくなってしまったのです。

今年(2023年)8月、新規路線としては75年ぶりとなる路面電車が、栃木県宇都宮市に開業します。

宇都宮市といえば、前回のブログで取り上げた栃木市から県庁所在地の座を奪った(?)ところですね。栃木市訪問の後に訪ねた宇都宮市は、下の写真の通り駅も立派ですし、JRの駅から東武宇都宮駅にかけての繁華街も多くの人で賑わっていました。あらためて、県庁所在地の移転に納得させられたのです。

開通する路面電車の名称は「宇都宮ライトレール」というそうです。路線の起点があるのはJR宇都宮駅の東口です。下の地図に、宇都宮ライトレールの路線図を示してみました。赤い点線がその路線になります。

実は近年、路面電車は再評価されているのです。
その理由の1つめは、地球温暖化の原因となる二酸化炭素を排出しないことです。路面電車は環境にやさしい乗り物ということですね。
また、昔の路面電車はバスと同じように1両のものが多かったのですが、連接車両の導入が進んだことでバスよりも輸送量が多くなったこともあります。宇都宮ライトレールも3両つながっています。
さらに、床の低い車両によるバリアフリー化も進められました。下の写真を見ても、車両の床が低いことが、ホームの高さからもわかりますね。これならば、お年寄りなども利用しやすそうです。
地下鉄のように長い階段やエスカレーターを使うこともないので、乗車までの時間もかかりません。長い階段やエスカレーターを上り下りしたり、長いことエレベーターを待ったりするのって、うんざりすることもありますよね。
このような次世代の路面電車のことをLRT(Light Rail Transit)といいます。LRTは、環境だけでなく人にもやさしい、手軽で利用しやすい乗り物なのです。


では、なぜ宇都宮市は新たな路面電車を導入することにしたのでしょうか。

大きな理由は道路の混雑です。地図を見てわかる通り、路線の途中や終点附近には大きな工業団地があります。ここで働く人々は、自家用車を使って通勤をしている人が多く、頻繁に渋滞が発生しているようです。途中に鬼怒川が流れているので、橋を渡るところに自動車が集中してしまうのでしょうね。大型ショッピングモールやサッカースタジアムなどの存在も、混雑に拍車をかけているようです。

また、宇都宮市も他の日本の都市と同じように高齢化が進んでいます。高齢者ドライバーによる事故が社会問題となっていることもあり、車を運転しなくても市内を移動できる交通機関の整備が求められているということもあります。

さらに、将来の人口減少を見越したコンパクトシティ構想というのもあります。都市の範囲が広がれば広がるほど、地方自治体は道路や上下水道など、インフラの整備を広くおこなわなければならなくなります。人口減少により税収が少なくなれば、それが地方自治体にとって大きな負担となってしまいます。そこで、郊外に広がった産業や生活機能を一定の範囲内に集中させるというコンパクトシティという構想が生まれたのです。宇都宮市では、ライトレールをコンパクトシティの主要な移動手段としたいのでしょう。

宇都宮駅の東側に開通するライトレールですが、宇都宮市の中心はJR宇都宮駅西口から東武宇都宮駅にかけてのあたりになります。こちらにも路線が伸びていかないと利用客の増加には限界がありそうです。駅の両側に別の路線を敷いて、駅を挟んで乗り換えるというのも不便ですよね。
しかし、その間にはJR宇都宮線と東北新幹線の線路があります。宇都宮線はライトレールと同じく地上を通っていて、新幹線は高架上を通っています。ライトレールを西口側に伸ばすには、宇都宮線の線路を越えながら新幹線の線路の下をくぐる必要があり、これは厄介な工事になりそうですね。
LRT導入の成功例とされている富山県富山市では、北陸新幹線富山駅を突っ切って、駅の反対側と直通運転がされています。路面電車と新幹線の乗り換えも便利で、宇都宮もこのような形にできるのが理想でしょう。富山の場合は北陸新幹線の工事と同時に在来線の駅も高架上に移設するという大規模な工事を実施しました。宇都宮で同じことをするのは、駅の規模を考えてもあまり現実的ではないようです。数年後、どのような形でライトレールが進化するのか楽しみですが、まずは今回開通する区間の成功が不可欠でしょうけど。

渋滞によって淘汰されていった路面電車が、渋滞の解消を目的に新しく建設されるというのは皮肉なものですね。全国の都市の中にも、LRTの導入によって街の活性化を図りたいというところがあるようです。宇都宮ライトレールはその試金石となるでしょう。ぜひ注目していきたいですね。

「?」はきっとそこにある
「?」を知ればおもしろい!
みなさんも、身近な「?」を見つけて楽しんでみてください。

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