~千葉県夷隅郡 本多忠勝と大多喜城編~
2023.06.01
みなさんこんにちは。
リンスタ社会科担当の白井です。
「家康に過ぎたるものが二つあり、唐の頭に本多平八」
これは、若き日の徳川家康が武田信玄の軍と戦った、一言坂の戦いの後に詠まれた歌と言われています。
「唐の頭」というのは家康が愛用していた立派な兜のこと、「本多平八」というのは、徳川四天王のうちでも特に勇猛な武将として知られて本多平八郎忠勝のことです。どちらも「家康なんかにはもったいない」ということですよね。
後に天下人となる家康ですが、武田信玄と戦った三方ヶ原の戦いでは、大敗して命からがら浜松城に逃げ込んだと言われています。一言坂の戦いは、その三方ヶ原の戦いの少し前に起こった武田軍と徳川軍との衝突です。浜松城に迫る武田軍に遭遇した家康軍はなすすべもなく敗走し、その後重要拠点だった二俣城を奪われています。
家康を無事に撤退させるため、軍の最後尾で敵を防いだのが本多忠勝でした。武田軍に挟み撃ちに遭った本多忠勝は不利とわかりつつも敵に突撃しますが、その気迫に驚いた武田軍は道を空けて忠勝を逃がしたといいます。忠勝を逃がした武田の家臣がこの活躍を高く評価して詠んだと言われているのが冒頭の歌なのです。
さて、前置きが長くなりましたが、その本多忠勝が築いた城下町が、今回のテーマとなる大多喜町です。
まずは、大多喜町の位置を地図で確認してみましょう。
大多喜町は千葉県南部にある、人口8千人あまりの小さな町です。東京駅から高速バスに乗ると1時間半程、鉄道利用だと、東京駅から特急電車に乗り、大原駅でいすみ鉄道に乗り換えると2時間程で行くことができます。
本多忠勝がここに城下町を築いたのは1590年のこと。
小田原城の北条氏が滅びた後、豊臣秀吉の命令で徳川家康は江戸に移されました。その家康が、南の安房国に拠点を置く里見氏への抑えとして、忠勝をこの地に置いたのです。
上の写真は、城の南東の方向にある橋の上から撮った大多喜城天守です。では、このあたりの地形を、いつもの地理院地図を使って見てみることにしましょう。
城の北西方向には、山と谷が幾重にも連なっています。南や東の方向には夷隅川が蛇行していて、天然の堀を形成しています。また、城の西側にある川に囲まれた比較的平らな土地は、城下町を築くスペースとして利用できます。戦いに備えた城とその城下町を築くには最適の地形と言えそうですね。
ただ、地形だけならば他にも適した場所はありそうですよね。大多喜ならではの利点はないのでしょうか?
もう少し、地図の範囲を広げてみましょう。
地図を見て気づいたのは、大多喜町は2つの国道が交わる地点だということです。おそらく、江戸時代も同じようなルートの街道が通っていたことでしょう。
国道297号線は、千葉県南部の館山市から、外房の勝浦市を通り、大多喜町を経由して東京湾沿いの市原市に抜ける道です。また、国道465号線は、外房の茂原市から南下し、大多喜町を通って東京湾沿いの君津市に抜ける道です。つまり、大多喜町は房総半島を縦に結ぶ道と横に結ぶ道との交通結節点だったのです(それぞれの都市の位置は最初の地図を参照してください)。
この2つの道沿いに軍を展開させれば、里見氏が南から攻め上ってくるのを完全に防ぐことができます。また、市原市まで出て東京湾を横断すれば、家康のいる江戸に行くのも容易でしょう。大多喜の地は、城を築くだけでなく、房総半島全体を抑えるためにも最適の土地だったということです。
大多喜城には、「本多忠勝を大河ドラマに!」という幟も掲げられていて、今でも大多喜の町の人々にとって忠勝が大きな存在であることがわかります。そういえば、町はずれの橋の両側にも忠勝の像が置いてありましたね。
多喜は「房総の小京都」と言われ、上の写真のような古い町並みを見ることができます。
町は人通りも少なく、今となっては「なんでこの場所が重要だったんだろう…」と思ってしまうような雰囲気ですが、その分、町の雰囲気をゆったりと味わうことができます。
いかにも歴史がありそうな老舗の酒屋さんや和菓子屋さんもありますし、何かと話題にもなるいすみ鉄道に乗って大原に出れば新鮮な魚介類を味わうこともできます。
そういえば、大多喜駅から大多喜城に向かう道は「メキシコ通り」と名付けられていました。城に向かう道の名としてはふさわしくない名だと思うのですが、もちろん歴史的な由来があるんですよ。この「?」は、あえてそのままにしておきますね。
東京から日帰りで十分に行かれる場所ですので、休みの日にふと思い立って出かけることもできるでしょう。ぜひ一度訪れて本多忠勝に会ってきてください。メキシコ通りの謎解きも忘れずにね!
「?」はきっとそこにある
「?」を知ればおもしろい!
みなさんも、身近な「?」を見つけて楽しんでみてください。
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