白井亨(しらいとおる)

~東京都港区 3つの新橋編~

2023.01.18

~東京都港区 3つの新橋編~

みなさんこんにちは。
リンスタ社会科担当の白井です。

2022年は、日本に鉄道が開業してから150年目となる節目の年でした。JRの駅の中にも、写真のような掲示が多く見られましたよね。中学入試の問題でも、鉄道はよく使われるテーマの1つです。

さて、日本の鉄道が開業したのは1872年のこと。ご存じの通り、東京の新橋と港町横浜を結ぶものでした。現在は、およそ30分程度で結ばれている東京~横浜間ですが、当時の〝汽車〟は約1時間かかったそうです。「やっぱり遅かったんだ」と思った人…想像力が足りないですよっ!
東京と横浜の間の距離は約30㎞あります。人間の歩く速度はだいたい時速4㎞くらいですから、休まずに歩いても7時間以上かかります。休憩時間や日没の時間を考えれば、1日がかりってことになりませんか?
1日かかっていたのが1時間で行かれるようになるって、まさに「衝撃的な」時間短縮でしょう。ちなみに、2022年の西九州新幹線開通による博多~長崎間の時間短縮は30分程度です。
どうですか?
当時の人々の驚きが想像できましたか?

そうそう、鉄道が開通したときのエピソードでおもしろいものがあります。
日本では、室内に入るときは履物を脱ぐのが一般的ですよね。初めて汽車に乗った人の中には、車内に入るときに履物を脱いで載ってしまった人がいたそうです。汽車が出ていったホームには、草履や下駄が残されていたとのこと。笑い話みたいですが、現代では決して味わうことのできない大きな変化だったということでしょう。

ところで、初めての鉄道は、なぜ新橋と横浜の間だったのでしょうか?
横浜は港町だったので、外国に向かう人々や、外国への荷物を運ぶのに便利だということが想像できます。でも、東京側の起点はなぜ新橋なんでしょう? もう少し先に行けば、繁華街の銀座や、五街道の起点だった日本橋もあるのに…。これは「?」ですね。こういうときはいつもの地理院地図です。

この地図からわかることは、鉄道開業時の新橋駅と現在の新橋駅は位置が異なるということです。駅としての新橋は“2つ”あったんですね。開業当時の新橋駅跡は、旧新橋停車場として当時の姿を復元され、その中は資料館になっています。
それにしても、やはり中途半端な場所だという感じは拭えないですね。地図の上のほうには「銀座」の文字も見えますから、もう少し北に伸ばせば繁華街に駅ができて便利なのに…。

地図からはこれ以上のことがわからないので、周辺を歩いてみることにしました。
そこで発見したのが“3つ目の新橋”です。下の写真は新橋親柱。親柱は「渋谷川編」でも出てきましたが、橋の両側に立っているその名が記された柱のことです。そう、ここには新橋という名の橋が架かっており、その下には汐留川という川が流れていたのです。

先ほどの地図に、汐留川の流れを入れてみましょう。
現在は川の姿を見ることはできませんが、明治の鉄道はこの川の手前で止まっていたのです。

川の手前で止まってしまった理由をこんなふうに考えてみました。
鉄道というと、人を運ぶものというイメージが強いですが、それはあくまで現在の話。かつての鉄道には、貨物輸送という大切な役割がありました。また、当時は川を使った水運も重要な輸送手段でした。
鉄道が開通して多くのものを輸送できるようになっても、新橋~横浜間という限られた区間だけでは、大きな効果を発揮することはできません。鉄道と水運を結びつけることによって円滑な輸送ができるように、あえて川の手前に駅を設けたのではないでしょうか。きっと、新橋に着いた荷物は、そこから船で東京の各地に運ばれていったのでしょう。

資料館には開業当時の写真がありました。
今では高層ビルが立ち並ぶこの一帯ですが、写真に写るのは、空き地の中にポツンと立つ停車場の建物でした。一見、なんでこんな何もないところに…と思ってしまいますが、それもここが停車場建設地に選ばれた理由なんです。現在でも、電車の終点になっている駅の近くには、大きな車両基地が設けられていることが多くなっています。起終点となる新橋には、車両基地を設けるための広いスペースも必要だったのです。繁華街の銀座や日本橋に、そんなスペースがあったとは思えませんよね。
新橋駅が現在の位置に移って以降、旧新橋駅は汐留駅と名を変えて貨物のターミナルとなっていました。開業時に広いスペースを確保していた証拠ですよね。

今回は、地図だけでなく現地に足を運んだことでいろいろな発見がありました。
まさに「街から学ぶ」ですね。

「?」はきっとそこにある
「?」を知ればおもしろい!
みなさんも、身近な「?」を見つけて楽しんでみてください。

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