白井亨(しらいとおる)

~神奈川県横浜市 幕末の開港地 神奈川編~

2022.12.29

~神奈川県横浜市 幕末の開港地 神奈川編~

みなさんこんにちは。
リンスタ社会科担当の白井です。

前回のブログではペリー来航を取り上げましたね。

ペリー来航の翌年には日米和親条約が結ばれて日本は開国します。この条約では、下田(静岡県)、函館(北海道)の2港を外国船の寄港地として許可し、食料や水、石炭などの補給に応じるようになります。ちなみに「和親」というのは「仲良くする」といった意味です。
さらに、その4年後には日米修好通商条約を結びます。「通商」は「貿易」のことですから、今度はただ外国船が日本の港に入って来るだけでなく、そこで商売をするようになるわけです。商売をするわけですから、2港では足りませんね。そこで、この条約によって5つの港が開かれます。そのうち、関東地方で開かれた港が「神奈川」であるとテキストには書いてあります。「えっ。横浜じゃないの?」と思った方は、歴史をしっかり学んでいますね。そうなんです。確かにこの時に開かれたのは現在の横浜港なんです。それなのに、なぜ横浜ではなく神奈川となっているんでしょうか?

では、いつものように地理院地図で現在の横浜付近を見てみましょう。

横浜駅の1つ東京寄りに、「東神奈川」という駅があります。この駅の住所は、「神奈川県横浜市神奈川区」ですので、このあたりが当時の神奈川と考えていいでしょう。
現在は埋め立てが進んでいるので、当時の海岸線はもう少し奥にあったと考えられます。そうすると、東神奈川駅近くの旧東海道のあたりは海沿いで、ここが開港地と考えても不自然ではありません。でも、ここが開港された場所だとすると、現在の横浜港とはちょっと離れていますよね。横浜港の最寄り駅は、JR線だと桜木町駅や関内駅ですので、電車に乗っても2~3駅分離れています。

江戸時代の絵師歌川広重の『東海道五十三次』には、当時の神奈川の様子が描かれています。この絵には、沖合に浮かぶたくさんの船と、道沿いに並ぶ宿を確認することができます。このことからわかるのは、江戸時代の神奈川というのは、港であると同時に、東海道の宿場町だったということになりますね。
下の写真は、復元された神奈川宿の「高札場」です。高札場というのは法令が書かれた木の札を掲げておく場所のことで、人通りの多い場所に設置されます。江戸にも近いこのあたりは、多くの人が行き交うところだったのでしょう。

当時は「尊王攘夷」がさかんに唱えられていました。もし、人通りの多い神奈川を開港地にしたらどうなるでしょうか? 攘夷の実行を企む人々と外国人とのトラブルが多発することが予想されますよね。
実際に、開港から数年後の1862年には、神奈川宿から少し東に進んだ東海道沿いで、薩摩藩によってイギリス人が殺傷される「生麦事件」が起こっています。
下の写真はこの事件で犠牲になったイギリス人が落命した地に立てられた「生麦事件碑」です。この碑が立つ場所は、現在でも国道、高速道路、鉄道など多くの交通機関が通る場所です。人の行き交う場所だからこそ、このような痛ましい事件が起こったのですね。
江戸幕府は、生麦事件によって多額の賠償金をイギリスに支払うことになります。

トラブルを未然に防ぐために開港地に選ばれたのが、当時は何もない小さな漁村だった横浜だったのです。横浜はその名の通り、海に突き出た「横に伸びた浜」がある場所でした。三方を海に囲まれた地形ですから、1か所を封鎖すれば外国人を隔離することができたのです。長崎の出島のような感じですね。日本人と外国人との接触をできるだけ避けたい幕府には好都合ですよね。人通りの多い東海道から離れているということも好都合です。

 条約を結んだ外国からは「約束通り神奈川を開港せよ」という要求があったそうです。当時は神奈川のほうが繫栄していたのですから、当然の要求でしょう。これに対して江戸幕府は「対岸にある横浜も神奈川の港の一部だ」と言い張って横浜の整備を進めたそうです。地図を見る限りは、無理があるように思えるんですけどねぇ…。

開港した横浜は、あっという間に日本一の貿易港に成長していきます。何もなかったことが幸いして、港や都市としての開発もしやすかったのですね。今や、横浜市は名古屋市や大阪市を凌ぐ大都市です。何が幸いするかわからないものですよね。

地図を見てちょっと気になったことがあります。それは横浜駅の位置です。神奈川宿からも横浜港からも離れた中途半端な位置にあるように見えますが、なんでこんな位置になったのでしょう。これは新たな「?」ですね。長くなったので、この「?」はまたの機会に解決してみようと思います。

ところで、生麦事件の現場となった場所の目の前には、現在キリンビールの大きな工場があります。ビールは麦酒とも書きますよね。生麦と麦酒、これって偶然なんでしょうか(笑)

「?」はきっとそこにある
「?」を知ればおもしろい!
みなさんも、身近な「?」を見つけて楽しんでみてください。

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