脂肪の消化でできるのはモノグリセリド?
2024.05.21
小学5年の理科では1ヶ月程度人体について学習します。うでをまげのばしするときにどのように筋肉が伸び縮みしているか、心臓から全身へ血液がどのように流れているかなど、小学校で学習する内容から、やや専門的な内容まで扱います。
入試問題でよく出てくる内容の1つとして「消化」があります。食べ物を食べたあと、体の中にどのように入っていくのか、臓器の位置、消化液、消化酵素をていねいに覚えていく必要があります。
三大栄養としておなじみ「炭水化物(でんぷん)」「タンパク質」「脂肪」がそれぞれどう消化していくのかを学習しますが、その中の1つ「脂肪」の消化について私が中学受験をしたときとはかわっている部分がありました。
教材には「すい液中の消化こう素のリパーゼによって、しぼうがしぼう酸とモノグリセリドに変わります」とあります。以前はモノグリセリドではなく、グリセリンと記載されていました。名前が変わった?と不思議なかんじです。今回は名前がなぜ変わったのかという話です。
まず、脂肪のつくりはこのようになっています。
この図は脂肪1つの分子を簡略化したものです。グリセリンに3つの脂肪酸がついています。
すいぞうから十二指腸中に出されるすい液には消化酵素リパーゼが含まれています。リパーゼはグリセリンと脂肪酸のつなぎめを切るのを助けるはたらきがあります。
図から考えると、リパーゼがはたらくことにより、脂肪1つが消化されれば、グリセリン1つと脂肪酸3つができることになります。リパーゼはすべての脂肪酸をいっきにはがすのではなく1つずつとっていきます。
脂肪酸が1つとれたものはジグリセリド、「ジ」は数字の「2」を意味します。ジグリセリドという名称は中学受験では見られません。消化途中ですからね。
脂肪が2つとれたものがモノグリセリド。
モノグリセリドの「モノ」は数字の「1」を意味します。
「モノラル」「モノトーン」「モノコード」など、頭にモノがつく言葉を思い浮かべれば1つということがわかりやすいかと思います。
ちなみに脂肪酸が3つついた最初の脂肪は「トリグリセリド」と呼びます。「トリ」が数字の「3」を意味します。「トリオ」「トリプル」の「トリ」で、「トライアングル」「トライアスロン」の「トライ」も「トリ」と同じ意味です。モノグリセリドは日本語に直されていないのでそのまま。「トリグリセリド」は脂肪と訳され、モノグリセリドはそのままよぶという日本語と海外からきた名称が混在してしまっています。
さて、モノグリセリドまで消化されたあと、かつてはグリセリンと脂肪酸に完全にわかれると考えられていました。ところが、脂肪酸の最後の1つははずれず、モノグリセリドの状態で小腸から吸収されていることが判明し、2012年の教科書改訂で内容も書き換わりました。実験室の試験管内で脂肪をリパーゼと作用させる実験を行うと、脂肪酸が3つともはずれてしまうことで、体内でも同じことがおこっていると思われていたようです。教科書が書き換わったのは2012年ですが、それよりも前に私が大学で受けた授業で、当時グリセリンとかかれていた教科書内容は違い、モノグリセリドまでしか消化が進まないということを聞き、びっくりした記憶があります。教科書内容がかきかわるまでに数年かかったようです。
脂肪の話ついでにもうひとつ。「脂肪酸」は台所で使われているあぶらなど様々なところに活躍しています。
脂肪酸には種類がいろいろあり、「オレイン酸」「リノール酸」「リノレン酸」などがあります。サラダ油の広告で見聞きするのではないでしょうか。オンラインで受講している生徒に、家にあるサラダ油をもってきてもらうと、成分表示に脂肪酸の文字がはっきりと。日頃気がついていないだけでけっこうあるものです。
日常生活で「あぶら」とよんでいるものは、脂肪、脂肪酸が混同されています。使われている意味が理解できるようになってくると、受験勉強の枠を超えて楽しめそうです。
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